絶望から始めよう

2019年4月12日 投稿者:大橋 智

みなさんは自分のことを「幸せ」だと思いますか?
 
「幸せ」かと問われたら、今日は電車で席に座れたとか、昨日のランチがおいしかったとか、なかなかとれないチケットを手に入れることができたとか、「幸運」にも日々の生活がよりよくなったことを振り返り、それを「幸せ」だと感じるのではないでしょうか。なにかを手に入れたり、なにかが増えたり、なんらかのポジティブな出来事が、みなさんの生活の中に生まれ、自分のものになっていくと、自分自身がよりよく変化していったように感じるのかもしれません。一方で「不幸」であるのは、困難や悩みを抱え、自分自身がまるでなにか欠けているような、自分自身の手では世界を変えることができないような思いを感じることかもしれません。
 
さまざまな心理臨床に立ち会う中で、問題を解決することが難しい事象に出会うことは稀ではありません。この場合の「解決」とは、欠けているところを満たし、困難や悩みを消し去ってしまうことです。ある当事者にとっては、困難を抱えたまま、その人がその人らしくあることができるように支援することが求められるのです。たとえば、なんらかの障がいを抱えた人や災害に見舞われた人、大切な人を失った人にとって、その欠落を埋め合わせたり、世界を元通りにすることは叶わないのです。私たちは、悩みや困難がないことをまるで「幸せ」であるかのように思っていますが、実はそれらの困難を抱えながら、それでもその人の「幸せ」を願い、ともに考えることが必要となることがあるのです。
 
行動分析学における言語行動の権威であるスティーブン・ヘイズは、「絶望からはじめよう」と問いかけます。問題や困難と向き合い「綱引き」を続けることが、当事者の困難さを深め、苦しみを深めてしまうことがあるから、その綱を離してみようという提案です。私たちは、悩みを抱えたままの自分を「異常」で、悩みのない自分を「普通」だと信じ込んではいないでしょうか?(そして「幸福」とはその先にあるものであるとさえ)
 

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大橋 智(Tomo Ohashi)
プロフィール
専門:応用行動分析
略歴:立教大学大学院現代心理学研究科博士後期課程満期退学。明星大学心理学部実習指導員を経て現職。応用行動分析に基づく地域支援(発達障害児者やその家族)やコンサルテーションを専門とする。