子どもたちの心が聴こえる音楽を

2016年2月10日 投稿者:竹内 貞一

私の担当授業は「子ども音楽」と「音楽表現指導法」です。授業でいつも学生に「子どもが表現できる人間として育つ」ことを大切に「表現を守る存在」になってほしいと伝えています。
 
例えば,辛いことがあっても誰にも言えず一人で苦悩しているなら,それは表現できない苦しみです。もし,信頼できる人に話せて良かったと思えるなら,それは表現できた幸せでしょう。適切に表現できる力は,人としての幸せを支えるのです。音楽もその表現の一つです。
 
しかし「音楽」を学ぶとき、人は「上手に」「間違いなく」にとらわれ、他人と自分の技量を比較しはじめます。すると、心の内を素直に表現するという本質は失われ,技術的正確さの追求が目的化します。その発想が子どもに押しつけられた時,子どもは上手・下手で裁かれ「表現できない存在」になってしまいます。それで良いのでしょうか。子どもたちが表現できる環境を作ることが保育者・教育者の役割であると考えます。
 
私は音楽教育研究の一方で,臨床心理士として,子どもたちに向き合ってきました。臨床場面では,子どもたちは様々な遊びや非言語的手段で,辛い現実や実際の境遇と真逆の幸せをファンタジーとして表現することがあります。その心の内にある現実を理解しようと向き合っていると,次第に,その子の持っている健康的な側面が表れたり,何かを乗り越えたという表現に変化していくこともあります。このように表現を受容することの大切さを実感する機会に何度も恵まれました。
 
そうした経験から,音楽を通して表現できることを支えるために,私は音楽教育と臨床心理の2つのフィールドの統合的体現の重要性を考えています。ただ単に「上手な音楽」を求めるのではなく,音楽を通して子どもの心が聴こえる人材を育てたい。「心理と保育・教育が学べる」ことを願っている学生たちを,私は音楽の面から支えていきたいと願っています。
 
 

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竹内 貞一(Teiichi Takeuchi)
プロフィール
子どもの音楽表現、芸術表現を心理学的に理解することがテーマ。研究分野は、音楽教育、音楽心理学、芸術療法。臨床心理士でもある。スクールカウンセラー、教育相談、子ども医療における心理療法・査定に従事。