子ども一人一人を大切にする教育

2017年2月24日 投稿者:岡本 明博

 障がいのあるなしにかかわらず「様々な子どもがいることが当たり前」とする教育のことをインクルーシブ教育といいます。このインクルーシブには「共に」「排除しない」「どの人も受け入れる」という意味があります。男の人も女の人も、自国の人も外国の人も、障がいのある人もない人も「様々な人が共にある」という考え方を大切にしています。

 2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」には、教育(第24条)について次のように記されています。「障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと(Persons with disabilities are not excluded from the general education system on the basis of disability)」。さらに、「学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全なインクルージョンという目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること(Effective individualized support measures are provided in environments that maximize academic and social development, consistent with the goal of full inclusion.」。

 我が国でもインクルーシブ教育の実質化に向けて、特別支援教育を中心に子ども一人一人を大切にする教育、インクルーシブ教育システムの構築に向けた取り組みが進んでいることは喜ばしいことです。

 特別支援学校や特別支援教育の取り組みではありませんが、「子ども一人一人を大切にする教育」に取り組んでいる足立区の小学校での実践について、「これからの教育・福祉を考える会主催の研究会(事務局:上田征三・岡本明博)」で聞く機会がありました。元小学校校長の小池康之先生(足立区教育委員会委員)は、子どもの「やりたい」を大切にし、子どもが自分なりに学力を伸ばしていけるよう、多様な学びの機会を用意してこられました。例えば、モーニングスクールを子どもの習熟度に応じて実施されました。そのもとになるのが「学力ポートフォリオ」です。「学力ポートフォリオ」とは、子どもの単元別テストの結果を入力した結果一覧のことです。さらに問題ごとに子どもの正答率を把握するために「S-P表」も活用されています。「S-P表」のS:Student score(得点)、P:Problem score(正答数)を意味し、S-P表は子ども一人一人の正答、誤答の状態を一覧表にしたものです。この小学校の先生方はこれらのデータを分析し、一人一人の子どもの学習状況を客観的に把握し、次の手立てを個別に考えます。印象による漠然とした目標ではなくデータ分析から導き出された目標を立て、具体的に学習を支援します。これら一連の取り組みを特別支援教育では、個別の指導計画といいます。他にも「さかのぼり学習(プリント)」、勉強が遅れがちな子どもを校長が個別に指導する「プレジデントタイム」、「夏季集中講座」なども実施されています。小池先生は「子もが将来に夢を持ち、希望に満ちた学校にするには、まず毎日の授業を充実させ、基礎学力をきちんとつけることが大切です」と話されます。この足立区の小学校での取り組みは、特別支援学校や特別支援教育の実践ではありません。目の前にいる一人一人の子どもの「勉強がわからない」「聞き取れない」、本当は「学びたい」「知りたい」「やりたい」という気持ちにどうしたら応えられるか、と本気で考えられた通常学級での取り組みです。

 私は校長をはじめとする先生方が、目の前にいる子ども「一人一人を大切にしたい」と本気で思い、本気で取り組まれたからこそ実現することができたのだと思いました。足立区の小学校で行われている教育の実践は、特別支援学校からではなく地域の小学校から生まれたインクルーシブ教育なのだと、「障害者の権利に関する条約」を思い出しながら、この理念の実質化を目指して実践や養成を行ってきた私の心は熱くなりました。

 
 

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岡本 明博(Akihiro Okamoto)
プロフィール
専門:障害児保育臨床学、モンテッソーリ障害児教育学
略歴:筑波大学大学院教育研究科修了。児童発達支援センターで障害乳幼児の発達支援及び保護者の相談援助に従事。その後、長崎純心大学准教授を経て現職。