子どもの安全を考える認知心理学

2018年4月27日 投稿者:坪井 寿子

 心理学のなかに認知心理学という分野があり、情報処理の概念に基づいて人間の知的な働きについて取り上げています。例えば、環境からの情報を見たり聞いたりする「感覚(知覚)」、情報を取捨選択する「注意」、覚えたり思い出したりする「記憶」の働き、問題を解決したり推理する「思考」などが代表的なテーマになります。コンピュータのように一度に多くの情報を処理することはできませんが、人間ならではの認知のメカニズムを解明しています。基礎的な心理学の分野ですが、子どもの安全といった実践的な問題についても考えることができます。
 
 子どもたちはいろいろな場面でのびのびと楽しく遊んでいますが、時には転倒したり、誰か(何か)とぶつかったりと危険な目にあうこともあります。いわゆるヒューマン・エラーの問題になりますが、なるべく事前に予防することが大切です。ただ、幼い子どもたちの行動の特徴として、次にどのような行動をとるのか予測しづらいところがあります。大人が思いつかないことを考えたり行動したりすることが子どもたちの魅力の1つとも言えますが、それゆえ危険な状況から守るのは難しい面もあります。幼稚園や保育園では、多くの子どもたちがいっせいにそれぞれの行動をとることもあるので、より一層難しくなると言えます。
 
 子どもたちを危険から守る大人の側から認知の働きについて少し考えてみます。まず「感覚」については、視覚・聴覚・触覚などの感覚情報をバラバラに処理するのではなく1つのまとまった情報に統合することによって、危険な状況をより早くとらえることにもつながっていきます。「注意」については、情報の選択だけでなく、情報をどのように配分するのか、どのような順序でとらえるのかといった工夫をすると、見間違いやうっかりミスを減らすこともできます。「記憶」については、子どもたちを危険な状況から守るためには、とっさのときに必要な情報をすぐに思い出すことが求められます。覚えた情報をとり出す想起のプロセスが大切になります。「思考」については、危険を回避するにはとっさの判断が必要になってきますが、その際にどのような意思決定のプロセスがなされているのかを解明することは誤った判断を防ぐことにもつながります。
 
 いずれも基本的な認知のメカニズムに関するものです。瞬時に対応するため自分自身でも気づかないことが多いのですが、さまざまな認知プロセスを活用して子どもたちを危険から守っていると言えます。すでに多くの研究やプログラムが行われていますが、子どもたちが安全にのびのびと遊ぶことができるよう、認知心理学からどのようなことができるのかさらに考えていきたいと思います。
 

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坪井 寿子(Hisako Tsuboi)
プロフィール
専門:認知心理学、発達心理学
略歴:学習院大学大学院博士後期課程中途退学、大学入試センター(非常勤)、鎌倉女子大学専任講師を経て本学に勤務。臨床発達心理士、学校心理士。