第83回 物の見え方の臨床心理学

投稿者:山極 和佳

 先日、新潟県村上市にある笹川流れという海岸に行ってきました。笹川流れは、国の名勝および天然記念物に指定されている地域で、日本百景にも選定された海岸景勝地ということでしたので、遊覧船に乗ってその美しい景色を眺めてきました(写真は遊覧船から撮ったものです)。
 一緒に行った大学時代からの友人と私は、日本各地の温泉を巡ろうというテーマでずっと旅行してきているのですが、私たちは温泉と同じくらい、海岸や湖での遊覧船や、川下りの舟、城を囲む堀を廻る舟、地上だとゴンドラで山を登るロープーウェーといった乗り物が好きらしく、気が付けばあちこちでこれらの乗り物に乗っています。
 さて、遊覧船は海岸や岩、飛び交うカモメを眺めながら岩の間をぬうようにゆっくりと巡り、その間は、さまざまに名付けられた岩や海岸の名前の由来の解説を聞くことができます。その中に「君戻し岩」という名前の岩がありました。パンフレットでその名前を見て不思議に思っていたのですが、これを読んで下さっている皆さんは何を思い浮かべますか?
 解説によると、源義経が奥州落ちの際、笹川流れの美しい景色に気付いた家来が先頭の義経をわざわざ呼び戻したことから名付けられたとのことで、その他にも義経に関わる名前がいくつかありました。一方で「恐竜岩」という岩があり、友人と「これ○○(別の海岸)にもあったよね?」「△△(またまた別の海岸)だったかも?」「恐竜岩じゃなくて、天狗岩かも?」といった会話をしていました(その会話で私たちは、自身の乗り物好きを自覚したのですが)。実際調べてみると、恐竜岩や天狗岩、さらには夫婦岩というのも各地にあるようでした。現在のように交通の便がよくなく、人の行き来も少なかった頃に、あちこちで同じ名前を付けていたというのは不思議なことのようにも思えます。

 

 私の専門分野である臨床心理学では、カウンセリングや心理療法といった心理学的な支援を行うにあたって、まずは相手(クライエント)の心を理解しようとします。「アセスメント」と呼ばれるその活動では、面接(会話でのやりとり)や行動の観察といった方法と並んで、心理検査を用いる方法もあります。その中に、何らかの模様や絵を見て、それが何に、あるいはどのように見えるかなどを答えてもらい、そこからクライエントの心を理解するという心理検査があるのですが、これは、“私たち人間の「物の見え方」には、その人の心(の内容)があらわれる”という考えに基づいているものです。
 日本各地にあるそれぞれ別の岩は、これもまた別々の、かつ多くの人々に恐竜や天狗、夫婦に見えていたようです。これらは私たち人間の心の、「何か」をあらわしていた、あらわしているということなのかもしれませんね。

 

山極先生写真①山極先生写真②
  写真:遊覧船から撮った海岸        おまけの写真:村上市の名産品の鮭

 

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山極 和佳(Waka Yamagiwa)
プロフィール
専門:臨床心理学
略歴:早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程満期退学。早稲田大学人間科学部助手、東京福祉大学社会福祉学部講師、東京未来大学こども心理学部講師を経て現職。博士(人間科学)。臨床心理士。