第86回 ペイ・フォワード

投稿者:磯 友輝子

 12月14日は卒業研究の提出締め切り日でした。直前の1~2週間は、多くの研究室で4年生が(そして先生方が)必死の形相で論文執筆に取り組んでいました。私の研究室も修羅場と化していました。

 この時期になると、学部生時代にお世話になった院生の先輩の言葉を思い出します。先生や先輩は研究にアドバイスをしてくださり、論文執筆の際には、「赤い紙だったか?」と疑うほどに丁寧に添削をしてくださいました。そこで、卒業式後の懇親会で、お世話になった方々にお礼を伝えると、先輩はとても素敵な言葉をサラッと発しました。

 「その感謝は後輩に渡せばいい。そうやって人は育つんだから。」

 人は、恩を受けた相手に対して同等のものをお返ししようとする「返報性の規範」を持ち、行動すると言われます。しかし、先輩は、それを別の相手に渡すことで間接的に返報をするようにと述べたのです。

 先輩の言葉を胸に、自分が院生になったときには、学部生に対して同じように接してきたつもりですし、教員になってからも、あの恩を学生たちに渡すつもりで卒論指導をしています。卒論指導は、正直、とても大変です。でも、ついこの間まで右往左往していた学生が、私の助けで成長し、その姿を近くで見ることができると嬉しくなります。親切行動をするとポジティブ感情が高まるという知見がありますが(Otake et al., 2006)、実は、私も「喜び」「幸せ」という報酬をもらっているのです。人を助けたり、協力する行動は、外的報酬を期待することなく自由意思から他者に恩恵を与える利他的行動とされてきましたが、心理的・物理的な見返りあると期待することで利他的行動が行われる場合もあると言われています(互恵的利他主義と言います)。いわゆる、「情けは人の為ならず」(人に親切にすると、巡り巡って自分によい報いがくる)ということです。

 この時期、時々、卒業生が陣中見舞いに来てくれます。差し入れを持ってきてくれたり、4年生の論文をチェックしてくれたり、今年などは家庭教師のように付き添ってくれたり。卒業生も「感謝を後輩に渡す」気持ちを抱く人に育ってくれたようです。なんと教師冥利に尽きることか。あ、また私が「幸せ」をいただいてしまいました。

 ちなみに、タイトルの「ペイ・フォワード」とは、ミミ・レダー監督の映画です(ワーナー・ブラザーズ配給)。主人公の男の子が、社会科の授業で出された「世界を変える」方法として、自分が受けた善意を他の3人の人に渡すことを提案をしています。先輩の言葉は、まさにペイ・フォワードだなと思っています。

 

<引用文献>

Otake, K., Shimai, S., Tanaka-Matsumi, J., Otsui, K., & Fredrickson, B. L. (2006). Happy people become happier through kindness: A counting kindnesses intervention. Journal of Happiness Studies, 7, 361-375.

 

 

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磯 友輝子(Yukiko Iso)
プロフィール

専門:対人社会心理学
略歴:日本大学国際関係学部、名古屋大学文学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学院助手、本学こども心理学部講師、准教授を経て現職。