第16回 研究者・教員としての私のモチベーションの原点

投稿者:渡邊 隆之

かつて大学時代「なぜ経済学を学ばねばならないのか」良く理解できなかった。学部の選択を間違ったのでは、と真剣に悩んでいた。
そうした状態で迎えた3年生の授業で私は「マーケティング」と「商業経済論(流通論)」に出会った。目が覚めた、とはまさにこのことだろう。素直に「面白い」と感じた。
そう感じた理由は2つある。1つはマーケティングなり流通なり、それらが扱う事象は身の回りのものであり、親近感を持って接することが出来たからであろう。

 

しかし、もっと大きな要因は、それらの授業を行った恩師田島義博先生のご教授の方法にあると信じている。まず、事例から入る、事例の様々な背景やエピソードをユーモアを交えながら説明する、示唆される事柄を整理する、理論的に知っておくべきことがあれば最後に伝える、まさにこの一連の流れは、私だけでなく多くの学生の興味をごく自然に駆り立てていった。

 

私が理想とする研究者の姿、教鞭を握るスタイルは、まさに田島先生である。大学教員はまだ雲の上の存在であったが、もう少し勉強したいと真剣に考え大学院へ進学することにした。机上の勉学で物足りなくなり、修士で一区切りし、実務を経験する道を積極的に選んだ。「いろいろな業界を下からみることのできる小売業に行ってやろう」と考えた。

 

当時のスーパーの社会的地位は低かった。しかし、貴重な体験をすることになる。業界でいち早く、(株)イトーヨーカ堂にPOSが導入され、そのデータをどのように活用し営業の成果を上げていくか、に直面した。データは販売結果を如実に表してくれたが、我々は何も消費者、購買者のことについて知り得ていないことに驚愕したことが研究者としての出発点となる。

 

消費者の購買意欲を刺激しうる小売店舗の進化こそ、経済活性化の原点であり、それは小売業のみならず、メーカー、卸売業等、業界の全ての参画者の共通課題である。また、この領域はマーケティング研究の中において、最も研究が遅れていることも知った。
今後も研究の第1のテーマとしては、「店舗内購買行動」を起点・中心としたマーケティングの実践方法の再構築とし、私のライフワークとして行くことを決めた。

 

こうした人生を歩むことになった出発点は、大学時代における田島先生との出会いであり、卒業後も常に「田島ゼミ」は脈々と継続していった。
私自身の経験からも「ゼミこそ大学」と考え、これまでも最も注力してゼミ生を大切に育ててきた。「大学に卒業はあっても、ゼミに卒業はなし」という信条を持って卒業生達とも接してきた。そうしたプロセスを通じて私なりの教育観も醸成されてきたように思う。それらは下記の7項目であり、大学教育の抱負そのものである。

 

1.「もっと~したい」と思ってもらう
私の人生を大きく変えた契機は、「もっと~したい」と素直に思うことが出来た時であり、更なる自分の可能性を引き出してくれた。私がそうだったように学生達にも「もっと~したい」と心から感じてもらう機会を提供するのが使命と考えている。

 

2.「よく遊び、よく学ぶ」
勉強ばかりしていると生産性は落ちてくる。まず遊ぶ、その後に勉強する、すると乾いた砂に水が浸み込むようにすんなりと頭に入ってくる。
むしろ、遊びながら、これも勉強だと考えて遊ぶ、そうすると勉強が苦でなくなってくる。ガリ勉はスマートではない。
私も一緒に遊ぶことで、彼らの本音が分かってくる。

 

3.「高い山は裾野も広い」
深く掘ろう(高く登ろう)とすると関連分野について知らないと掘れないことに気が付くのである。幅広く勉強しようと思わせるためにも、深く掘ってみることが重要である。

 
4.「理論より体験」
理論を教えようとするから学生はつまらなくなる。まず、面白いと感じてもらうことが重要。そのためには、自分で体感してもらうのが一番。時間はかかるが、そのほうが深く根ざした記憶を学生に植え付けることが可能だ。「頭で考える前に、体で考える」。理論は後で良いのだ。

 
5.「切磋琢磨」
教えねばならないことは勿論教える。でもあえて教えなくて良いことは教えない。一緒に考える、一緒に議論する、一緒に調査・実験する。学生達も議論させ、競争させる。どちらが正しいか、最後まで分からないほうが実は楽しく、面白いのだ。

 

6.「大局観をもつ」
人の「器」その基本は「大局観」を持っているかどうかであろう。大局的に物事を考えようとすれば、より上からみたほうが良いし、上から見るから全体を見渡せる、全体を見渡せば全体最適な解を求めることが出来る。学問も人生も同様である。

 

7.「最後は頭でなく、心」
確かに頭の良い人間はいる。でもその人が皆から慕われているか、信頼されているか、愛されているか、それは別であろう。最も重要なことは「心の優しさ」だと思う。今こそ心の教育が必要だと思っている。そのためには、普段の講義、ゼミ活動の中で、我々教員が親身になって学生達と接するプロセスを通じて、「心の優しさ」の意味を体感してもらうのが一番の方法だと思っている。

 

 

渡邊隆之
渡邊 隆之 (Takayuki Watanabe)
プロフィール
学習院大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科博士前期課程修了。
その後、実務を経て、(財)流通経済研究所入所、主席研究員、理事を経て、学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、創価大学経営学部教授、沖縄大学法経学部教授、を経て、2012年4月より現職。
流通論、マーケティング、消費者の行動と心理などを担当。