第26回 私のアルバイト経験:面白くないことを面白く

投稿者:角山 剛

学生時代、いろいろなアルバイトをしました。家庭教師、教育用アイデア製品の宣伝員、デパートの臨時販売員、植木屋、工事現場事務所、建設現場での肉体労働、高校の宿直代行員、さらには建設現場のガードマン。思い起こせば、いろいろなアルバイトをやったものです。

 

家庭教師は、進学校受験を目ざす小学生の算数にてこずって冷や汗を流したり、親も先生もあきらめていた中学生の成績を本人もビックリするくらい上げたりしましたが、私はどちらかというと身体を動かす方が好きだったので、こちらは長くは続きませんでした。

 

教育用アイデア製品というのは、チョークでの手荒れを防ぐちょっと洒落た指サックのようなもので、これは残念ながら一つも売れませんでした。というより、宣伝してくれれば売れなくてもいいからとのことだったので、あまり熱が入りませんでした。デパートでは1時間に冬物ジャンパーを100着以上売った日もありました。植木屋は職人さんの助手で、専ら穴掘り。けれども、大きな植木を移植する時の根回し(ホンモノの根回しです)の方法や水遣りの方法など、その後けっこう役に立ちました。

 

いま思い出して大変だったのは、建設現場での肉体労働とガードマンの仕事です。春のアルバイトは山の中での建設用の土地造成工事で、こちらは朝におろした軍手が、霜が融ける10時頃には破れているというような、ハードな仕事でしたが、昼にどんぶりで食べる炊きたてのご飯と、どんぶりで出される熱い味噌汁のうまかったこと!

 

夏は「けれん磨き」という仕事を1ヵ月ほど続けました。ビルを建てるときに型枠にコンクリートを流し込みますが、コンクリートが固まってからこの型枠を外すと、表面にコンクリートのかけらが付着していることがあります。これを、先端にコテ状の小さな板がついた「けれん(けれん棒)」といわれる棒状の道具でこそぎ落とし、さらに表面に油を塗って、次に使えるよう整えます。鉄板状の型枠の大きさは、はっきりは覚えていませんが、だいたい50〜60㎝×170〜180㎝くらいのサイズだったように思います。これがずらりと積み重なっていて、朝から夕方まで、2人一組で降ろしては磨き、降ろしては磨きの毎日です。それでも、「今日は昼までに何枚片付けよう」「あいつよりも1枚でも多く仕上げよう」といった目標を立てて作業ができたので、炎天下できつくはありましたが、それなりにやりがいを作ることもできました。

 

ガードマンの仕事は、皆さんが街で見かける路上の仕事ではなく、これも山奥の造成工事現場が主でした。いくつかの現場に配置されましたが、一番きつかったのは、ダンプカーが1時間に1台か2台、入っては出ていくときの誘導の仕事でした。朝から晩まで、ゲートにはガードマンである私一人しかいません。肉体的には楽な仕事でしたが、精神的には一番きつい仕事でした。

 

なぜだと思いますか? それは「することがない」状態が仕事時間の9割近くを占めているからです。工事現場には、法律的には安全確保のためガードマンを置かねばなりません。現場監督や工事関係者が不定期に回ってくるので、サボったり寝ているわけにもいきません。ダンプカーが来ないときにはどうしているかというと、折りたたみのパイプ椅子に座っているか、せいぜい付近を箒で掃くくらいです。携帯やスマホなど影もかたちもない時代ですから、いまのように時間つぶしもできません。でも、ダンプカーの出入りの時にはそこにいて誘導しなければならないのです。

 

感覚剥奪(sensory deprivation)という、心理学ではよく知られた実験があります。これは、視覚、聴覚、触覚への刺激が入ってこないようにした状態で、部屋でただじっと寝ているという実験で、参加者には高額の報酬が用意されています。一見楽ちんな実験ですが、参加者の殆どは数日もたず音を上げました。人間というのは、感覚のない世界に身を置くことは耐えがたいことなのです。

 

私が経験したガードマンのアルバイトも、似たところがあります。行動が制限され、話し相手もおらず、入ってくる刺激も単調です。だいたい2時間もすると飽きてきますが、仕事ですから持ち場を離れるわけにもいきません。このようなとき、皆さんならどうしますか。私もいろいろ工夫しました。まずは「しりとり」です。初めに頭に浮かんだ言葉から始まって、一人しりとり(!)を延々続けました。次は好きな歌手や好きな歌を、知っている限り何番まででも頭の中で歌ってみました。百人一首を「あ」から始まる歌の順に思い出すこともしました(これはけっこう時間がもちました)。

 

実はこれらは、面白くない仕事、なかなかモチベーションが湧かない仕事を、面白いものに変える「ゲーミフィケーション(ゲーム化)」という方法に類するものです。けれん磨きでの目標もそうです。仕事というのは面白いことばかりではありません。やりたくないことでもやらねばなりません。そんなときに、どうすればいまやっていることを面白く感じることができるかを考えてみることが、モチベーションを生み出します。けれん磨きでは人と競争する、ガードマンの仕事では、しりとりを長く続ける、歌を思い出す、百人一首を思い出すといった、目標を立てたわけです。ちなみに百人一首は、私が高校時代に好きで覚えたのですが、百首をア行から順に思い出すという明確な目標だったので、けっこう時間をつぶすことができました。

 

ゲーミフィケーションは、仕事の場面だけではなく、勉強にも応用できます。例えば、あきら君であれば「今日は頭文字でAKIRAと並べられる英単語を探して覚えてみよう」といったように、ゲームの要素を持ち込むのです。

 

オランダの歴史家ホイジンガは、文化を含め人間の活動のあらゆる面には遊びの要素がある、人間の活動の本質は遊びであると喝破し、「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」という言葉を広めました。つまらないと思うことを、いかに面白くするか、その工夫の中で、行動へのモチベーションも生まれてくるといえます。

 

私の経験した他のアルバイト、工事現場事務所でも大変面白い経験をしましたし、一番長く続いた高校宿直代行員という耳慣れない仕事も、面白いものでした。何が面白かったか、それはまた次の機会に。

 

角山剛
角山 剛(Takashi Kakuyama)
プロフィール
モチベーション行動科学部学部長。モチベーション研究所所長。
立教大学文学部心理学科卒業。同大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、産業・組織心理学会常任理事(元会長)、人材育成学会常任理事、日本応用心理学会理事など。
専門は、産業・組織心理学、社会心理学。ワーク・モチベーションに関する著書、論文多数。