第27回 不条理な世の中

投稿者:金塚 基

人は誰でもなぜ自分だけが…といいたい気持ちにさせられるような事情をお持ちだと思います。なぜ自分だけがこんなにみじめな目に遭ってきたのか、なぜこんなに不幸な目に遭わなければならないのか、なぜこんなに苦しめられるのか、といった具合です。

それは自分だけではなく、それなりに個々の人たちに自分に合ったレベルで同様のことが起きているんだと思います。そしてそれは、子どもの時から大人になって年を取って死んでいくまでそのような気持ちにさせられるのではないかと予感しているのが私です。

 

思えば20歳代ころの私はとてもみじめな気分で毎日の生活を送っておりました。当時、家出同然で都電の鬼子母神(恐ろしい地名ですね)の駅の近くの物置小屋に下宿させてもらって生活していました。

大家さんは敷地内の平屋に住む高齢のお婆さんで、その土地所有権を死守しており、しかし、すでにその周りは高層マンションでとり囲まれているため、昼でも電気をつけなければ暗い状態で、さらにいえば、外に出てみないと雨が降っているのかどうかさえわからないような環境でした。また、部屋の壁に沿った一本の細い柱を数回片手で押してみると、建物全体がゆさゆさと揺れ始めるのです。

ある日の午前中(9時頃?)、妙なにおいとともに私は目を覚ましました。それがガス的なにおいだと気づくまで相当の時間を要しましたが、気持ちが悪くなってきましたので毒がやってきたことには気づいて外に出ました。そして、急いで大家のお婆さんを呼びましたが、その息子さん(といっても初老男性)が出てきて、「何だい?家賃の前払いか」とでも言いたそうな顔をしました。私は、

「(物置小屋が)ガス臭いような気がするんで、散歩に出ます」

というと、顔色を変えて忍者のような身軽さで小屋に向かったのち、すぐに、

「ガス漏れだ!●●さん、大丈夫か? 起きなさい!」

というように、私の隣の三畳間に居候している●●とやらに叫び続けていました。

●●と同様に、まだ寝ぼけている私は、着の身着のまま南池袋の墓地のほうに散歩しに行きましたが、平凡なお墓以外、とくに面白いこともないので30分ほどしてまた戻ってきました。

すると、物置小屋の前になにやら数人の係員(ガス会社の人達か?)が、物々しくメーターで点検っぽくしつつ、大家の息子さんと相談している風情です。大家の息子さん曰く、二階の居候人のガスストーブからガスが漏れていたということで、ガスは比重が重いので一階の私の部屋に充満していたのだそうです。

その1時間後、二階の世捨て人的な雰囲気の居候人がやってきて、

「どうも、すいませーんでした!」

とのご挨拶を私にしてきましたが、そのときまでには頭がはっきりしていた私は、彼を自分と同類の人種だと親近感を覚えつつも、

「なにが、すいませーん、だ。お前のおかげでこっちはあと少しでのところで白雪姫みたく永遠に眠り続けていたのかもしれんのだぞ!」

といいたくなったが、ただただ物置小屋に住むみじめな小動物である自分を振り返ってしまい、自粛していました。

それから間もなく、残った生命力を振り絞って別のアパートに引っ越しました。とはいっても単に家出に家出を重ねただけなので、みじめな住環境が根本的に改善されたわけではなく、別のさまざまな気苦労が発生しました(次話に乞うご期待)。

 

しかし、いまでも思います。あの時あの晩、隣の●●殿のようにぐっすりと寝込んでいれば、毒りんごの白雪姫のように永遠の眠りに就けていたのではないか…それは自分にとってとても楽ちんな状況で、その後の面倒な生活に巻き込まれないで済んだのに、神様はそれを許さず、私に自立的な存在として生命をまっとうすることを求めたのだと解釈しています。もし、あなたにも、そんな危ない経験があったら、少しふり返ってみてください。

 

kanatsuka
金塚 基 (Motoi Kanatsuka)
プロフィール
研究テーマは保護者や子どもの教育期待に関する社会学的考察です。主に家族単位や地域間での比較研究を行っています。