第31回 学業成績が良い友人と自分との違いを真剣に考えてみた―高校生の自分を振り返る

投稿者:田澤 佳昭

高校のころ、私の周りには学業成績の良い友人たちがいました。彼らは、教わっている内容について、明らかに自分よりも時間をかけずに理解できていました。

 

最初は、自分が1つの科目で余計にかけてしまっている時間を減らせば、増えた時間を他の科目に充てられるかもしれない、と考えました。そうすれば彼らと同じように《効率よく》学べるような気がしたのですが、たいていは、どちらの科目も十分に理解できずにおわってしまいました。「二兎を追う者は一兎をも得ず」を思い知っただけでした。

 

何が違っていたのでしょう?学業成績の良い友人たちは、《結果》として時間をかけずに理解できてしまうのですが、時間をかけないこと自体を《目的》にはしていません。自分のように、彼らの「要領の良さ」を形ばかり真似て時間の使い方だけ考えてみたところで、彼らがみつけられた大事なことを、自分も同じようにみつけられるとは限らないのです。自分では「要領よくできた」つもりでも、大事なことを見落としていれば、それは「手抜き」と同じです。何も得られるはずはありません。

 

そのようなときに、『論語』の公冶長(こうやちょう)篇に、以下の一文をみつけました。

 

子謂子貢曰、汝与回也孰愈、対曰、賜也何敢望回、回也聞一以知十、賜也聞一以知二、子曰、弗如也、吾与汝弗如也。

 

孔子が「お前と顔淵(回)のどちらが優れているか?」と自信家の弟子の子貢(由)に尋ねたところ「顔淵とは比べものになりません。顔淵は一を聞いて十を知りますが、私は一を聞いて二を知るだけです。」と謙遜して答え、孔子も「私もお前と同じように、顔淵には及ばないよ。」と答えた、という話です。

 

学業成績の良い友人たちと自分との違いも同じではないかと考えました。子貢が一を聞いて二を知るだけならば、私などは一を聞いて半分の0.5か、多くても1.5を知るだけなのではないかと。自分も子貢や顔淵と同じように、一を聞いて二でも十でも知ることができるようになれば、《結果》として時間をかけずに多くのことを理解できるようになるのではないかと。

 

そう気づいたとき、彼らと自分との最大の違いに思い当りました。彼らは、文学や歴史、社会科学、自然科学など、実に色々な分野の知識を幅広くもっていたのです。分野ごとに見通せる眼鏡をいくつももっていて、違う教科で学ぶ事柄も組み合わせて理解することができているように、当時の私の目には映りました。学ぶ範囲を広げるのは、手間がかかり効率が悪いように思えるかもしれません。でも、その手間をかけた分、眼鏡の数が増え、その数の倍数分、自分よりも理解できているのだろう、という印象でした。「要領の良さ」を身につけるうえで大切なのは、手を抜くことではなく、手間を惜しまず、万全の準備をしておくことなのだと痛感させられました。

 

彼らは、自分とは違って、元々頭の良い人間なのだとあきらめてしまえば、その方が楽であったかもしれません。彼らとは違った花を咲かせれば、それで良いという考えが頭をよぎることもありました。でも、そのような考え方に納得してしまうことなく、「自分に残された手段は、まだまだたくさんあるはず」という、根拠のない希望だけは忘れずにいました。当時の私自身で褒められることは、この楽観的なあきらめの悪さくらいでしょうか。出遅れた分があるならば、その分、余計に時間をかけて追いかけるしかない、と頑張るようになりました。「効率の良さ」「要領の良さ」は、《結果》としてついてくるようになる、と信じて。

 

自分が天から与えられた才能のある「天才」でないことは、当時からわかっていましたが、凡人でも努力さえ続けていれば、他よりも秀でた才能を身につけた「秀才」に、いつの日かなれるであろうと、今でも信じています。

 

私の専門分野は国際政治で、尖閣諸島やスプラトリー諸島などの領土問題を研究しています。大学教員というと、自分の専門分野のことだけ研究しているように思われがちですが、そういうわけではありません。国際政治学や政治学はもちろんのこと、法学や経済学、漢文学や日本の古典文学、歴史学や地理学、宗教学、植物の肥料学、水産学、海洋学、数学などなど、さまざまな分野の「眼鏡」で今も検討しています。新しい「眼鏡」を手に入れるたびに、新しい事実に気づかされることも多くあります。

 

皆さんもじっくりと時間をかけて、幅広い知識・教養を身につけていってください。他の人には見えない事柄も、色々と見通せるようになってきますよ。

 

田澤佳昭
田澤 佳昭 (Yoshiaki Tazawa)
プロフィール
専門は国際政治。とくに尖閣諸島問題をはじめ、東シナ海・南シナ海をめぐる国際紛争について研究しています。休日は、息子と過ごす時間が一番楽しいですね。