第38回 失恋から学ぶ

投稿者:磯 友輝子

私の専門である社会心理学では、「恋愛」は研究テーマの一つであり、恋愛関係に至るプロセスや継続要因などに関して多くの研究が行われています。「学問的じゃない!」と怪訝に思うかもしれませんが、恋心が生まれ、親密な関係を形成し、子が生まれ…という流れを考えれば、恋愛を知ることは「自分自身を知る」ことの原点とも言えます。その一方で、カップル間の喧嘩、浮気、嫉妬、失恋などの親密な関係のダークサイドも、社会心理学の研究テーマです。恋人同士にとっては「そんなことは考えたくもない」「自分たちには関係ない」と思うかもしれませんが、いざダークサイドに直面した際に、自分たちだけの悩みだと思っていたことが他の恋愛関係でも起きていることを知れば安心しますし、効果的な対処方法を知っていれば、よりよい関係に近づけることができたり、その後の自分の振る舞い方を見誤ることも少なくなります。
 
私も、そんなダークサイドの一つ「失恋」を何度か経験しました。その中でも、学生時代に長い期間、恋人関係にあり、将来を約束していた人との別れは、今の自分に大きな影響を与えています。正確には、影響しているのは失恋そのものではなく、別れの後に経験した「コミュニケーション」と「心の働き」です。
 
 
失恋した後、ご多分に漏れず、私が最初に考えたのは別れの原因でした。わがままだった自分が悪いんだとひたすらに自分を責めました。修士論文の研究を進めている真っ最中でしたが、何も手もつかない状態でした。
そんな様子を見て、親友はぴしゃりと厳しい一言を放ちました。
 
「今のあなたは、自分が悪いと言うことで、相手をかばう自分に酔っているだけ。」
 
言い得て妙。頭に岩が落ちてきたかのような気分でした。私は失恋した自分を守るために自己卑下をしていただけだったのです。
 
失恋した直後の私の行為は、社会心理学の成功と失敗の原因帰属で説明できます。行為の原因を考えることを原因帰属といい、その原因の矛先は自分の内部にある要因外部にある要因、容易には変わらない安定した要因と変化する不安定要因の組み合わせで4つに分けられます(図)。特に、失敗(この場合には失恋)した際に、能力や性格のような安定した内的要因に原因帰属をしてしまうと、立ち直るのも遅く、次に類似した状況に遭遇した際に「また失敗するかも」と思ってしまうのです。しかし、失敗を努力のような変化の可能性がある内的要因に帰属することができれば、「改善すれば次は成功する」と思うことができますし、少しぐらい「ご縁がなかった」と外的要因に帰属すれば気分は楽になります。
 

図 成功と失敗の原因帰属の4次元 Weiner, B(1974)などを参考に作成

図 成功と失敗の原因帰属の4次元
Weiner, B(1974)などを参考に作成


 
私が原因と考えていたわがままという部分は、性格的なものもあるでしょうが、努力で改善できるものです。友人の一言で目が覚め、自分を守るための行為をやめ、人に配慮できる人間になろうと心に決めました。
さらに、当時の指導教員の言葉も気持ちを切り替える後押しをしました。
 
「磯さん、大丈夫です。浅野ゆう子さんは独身です。壇ふみさんも独身です。それから…。」
 
予想外の言葉に、泣きながらも笑ってしまいました。ですが、先生のお言葉を頭の中で繰り返しているうちに、ハッとしました。先生がお名前をあげた女性たちは、聡明な大女優。女優業に邁進するという目標に向かって進むことで輝いています。一方で、私は論文を読むのが大変だと愚痴を漏らし、研究者の卵にすらなっていなかったのですから、恋人の目に魅力的に映らなくて当然です。そこで、まずは修士論文の執筆という目の前の目標を何とか達成し、博士課程に滑り込むことができました。
 
 
失敗は学ぶためにあります。自分の何に問題があったのかを俯瞰して捉え、改善策を考え、目標に向けて努力することで人は成長します。このとき、人の心理的傾向や効果的な対処方法を知っていれば、その成長は加速します。今の私の目標は、そういった人の一般的傾向を世の中に発信し、コミュニケーションの学習機会を社会的スキルトレーニングとして提供することです。まだまだ達成には程遠いですが、指導教員の「それから」の後に私の名前が続いて出てくるぐらいに頑張りたいと思っています(あ、でも、私は独身ではないのでダメかな)。
 
 

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磯 友輝子(Yukiko Iso)
プロフィール
専門は社会心理学。特に対人関係のスキルや非言語行動について研究しています。共著に『暮らしの中の社会心理学』『幸福を目指す対人社会心理学―対人コミュニケーションと対人関係の科学 ―』。