第46回 コミュニケーションの方法

投稿者:杉本 雅彦

第28回コラムの「コミュニケーションが大切」では、大学生にとってのコミュニケーションの大切さについて述べました。今回は少し内容を広げてコミュニケーションの方法について考えてみます。
 
まず、遠隔コミュニケーションについて考えてみます。近年、ネットワーク技術の普及により、音声だけでなく動画も含む映像がリアルタイムで転送できるようになりました。このことにより、単にテレビ電話だけではなく、テレビ会議などの遠隔会議や遠隔教育、テレワークによる在宅勤務が可能になってきました。
 
東日本大震災では、特に首都圏において、震災後の交通機関の不通や運休が大勢の出勤困難者を生みましたが、テレワークが広く普及していれば、このような状況においても多くの業務が通常通り継続可能であったと考えられます。また、現在は労働市場からはずれている人達、例えば、育児や介護のために離職せざるを得なかった人達や、定年退職が出始めた団塊世代と言われている大量の高齢の人達などに、再度、労働市場に戻って来て働いてもらう必要性があります。しかし、これらの人達にとって、特に都市部においての長時間通勤は、肉体的、精神的な負担が大きく、働きたくても働くことができない原因の一つになっています。このような社会課題を解決するには、必要なとき以外は離れて仕事をするような完全なテレワークが有効だと考えられます。
 
一方、テレワークの割合が高くなると、互いの状況が見えなくなることによる問題点もあります。同僚の存在や職場の雰囲気などが自然に感じ取れ、また自身の状況も伝わる環境を構築していくことで、2拠点以上で離れて働くオフィスワーカーの「つながり感」を保持し、「疎外感」をなくしていけるようなマルチメディアを活用した双方向コミュニケーション環境が必要となります。
 
この問題を解決するため、人を含むオフィスの雰囲気を常時感じさせたり、実際に向き合っているようなコミュニケーション環境を提供したりすることで、テレワーカーがオフィスにいる時と同じように働くことができるようにする超臨場感テレワークシステムが研究されています。このシステムは、複数の映像や音、センサ情報を統合して利用するマルチメディアコミュニケーションシステムによって構成されています。それにより、複数視点の映像や多チャネルの音、人の動きなどを捉えたセンサ情報を遠隔オフィスにつたえ、遠隔オフィスでは受け取った情報を用いてあたかもオフィスに臨んでいるかのように状況を再現することを可能にしてくれる、夢のような遠隔コミュニケーションシステムです。
 
次に、障がい者とのコミュニケーションについて考えてみます。障がい者とコミュニケーションするには、視覚障がい者にとっての点字や、聴覚障がい者にとっての手話が有名です。現在は、点図ディスプレイや触覚ディスプレイにより、指や手のひらに触覚ピンの集まりで図形を提示してくれます。また、インターネットでホームページを読むときなども、スクリーンリーダーのソフトにより画面を読み上げてくれます。
 
目も見えず、耳も聞こえない二重障がい者は、点字を入力する時に左右の3本の指を使って入力します。これを相手の指の上でやれば指点字のコミュニケーションができます。また、肢体不自由の人で自分では声が出せない人もいます。たとえば、有名なイギリスの理論物理学者のホーキンク博士などです。このような人はコミュニケーションエイドという機械を使います。この装置は、予め登録された文章や単語などを、ボタン一つで呼び出し、音声合成でしゃべってくれます。
 
学習障がい者や自閉症の一部の人や言語に障がいを持つ人も言葉が出てこなかったりする場合があります。こういった人の中には、通常の文字による言語ではなく、絵文字によるコミュニケーションなら可能な場合もあります。電子メールなど文章を作成するときも、通常のキーボードではなく、代替キーボードという、それぞれの障がいにあった入力装置を用います。多くはボタン式で、キーボード上で手や指を動かす代わりに、キーボードが勝手にスキャンするので、目的の文字の列、または、文字上にきたときに、ボタンを押すだけで入力できます。
 
このスキャン式キーボードは、通常はパソコンまたは専用装置を使用します。しかし、ある夫婦はこれを人間同士で行なっています。ベッドに横になったご主人の前で、奥さんが、アイウエオ、カキクケコ・・・などと早口でしゃべります。特定の文字に来た時にご主人がわずかに瞬きすると、それを奥さんが読み取って、また次の文字を拾う、こういった作業を続けて意思伝達を行っています。
 
このように、人にとってコミュニケーションがいかに重要なのか、この例がよく物語っていると思います。今後、さらに技術の進歩により、コミュニケーションの方法や手段が増えて行く事でしょう。しかし、それは手段や方法が増える事にすぎず、いくら技術が進歩しても人の心の動きを変えることは難しいのでしょう。
 
 

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杉本 雅彦(Masahiko Sugimoto)

プロフィール

専門:ヒューマンインタフェース

略歴:信州大学大学院工学研究科博士後期課程。博士(工学)。NICTの高度通信・放送研究開発委託研究「革新的な三次元映像による超臨場感コミュニケーション技術の研究開発」に参画。