第54回 言い訳をしてしまう心理

投稿者:磯 友輝子

7月になり大学の春学期の授業もあとわずか。8月の試験にむけて、学生もそろそろソワソワする時期です。本日は、そんな「試験」にまつわる話をしようと思います。

 

第20回の教員コラム「よく学び、よく遊び、そして、よく活かせ」にも書きましたが、私は高校生のとき、あまり、勉強が得意なほうではありませんでした。そのため、試験期間は憂鬱でした。得意ではないと思い込んでいるので頑張らなければと気持ちは焦る一方で、効果的に勉強をしていないので知識が頭に入っていかない。

 

すると、試験の前に限って、眠くなる。

 

そして、「ちょっと仮眠を…」と自分に甘い言葉をかけてベッドに横になり、気づくと翌朝、ということが幾度となくありました。試験が始まる前の友人との会話では、いつも「昨日寝てしまった」と話していました。あまりにその頻度が多いせいで、いつからか、友人のほうから先に、「また寝ちゃったんでしょう」とニヤニヤしながら言われたこともあります。

 

大事な試験の前に「寝てしまった」「テレビを見てしまった」「掃除をしてしまった」など、自分には勉強できなかった状況(ハンディキャップ)があったと周囲に言ったり、あるいは本当に寝てしまったりすることをセルフ・ハンディキャッピングといいます。

 

セルフ・ハンディキャッピングをすることで、失敗してもハンディキャップのせいであり、自分の能力のせいではないと思ってもらえれば、周囲からの自分の評価を下げることはありません。また、もしハンディキャップがあっても成功すれば、なんてすごいんだと周囲から賞賛されるわけです。同時に、自分自身に対しても「自分って、結構やるじゃん」と思えるでしょう。そうやって、私たちは自尊感情(自分は価値がある人間であると思える感情)や自己肯定感(長所だけでなく短所を含めて自分を認められる感情であり、自尊感情とほぼ同義)を維持したり、高めたりしているのです。

 

しかし、あまりにセルフ・ハンディキャッピングをしすぎてしまうと、私のように「この人は言い訳ばかりで努力をしない人」というレッテルを貼られてしまいます。一度、レッテルを貼られてしまうと、その印象を払拭するのは難しいものです。「不利益をこうむる可能性があるから、この人との付き合いはやめよう」と思われてしまえば、挽回のチャンスさえありません。コミュニケーションが行われなければ信頼関係を築くこともできません。保身から出た「ちょっとした言い訳」が対人関係に影響を与えてしまうのです。

 

さらに、セルフ・ハンディキャッピングは、自分のモチベーションにも影響を与えます。自分が取り組むべき課題に対する自己評価が低いためにセルフ・ハンディキャッピングをするのですから、自分で自分に「乗り越えられない壁」を作ってしまっています。その壁を乗り越えなければ、いつまでたっても自尊感情は高まりません。「この状況では失敗しても仕方ない。失敗するならやらない。」という具合に、チャレンジへのモチベーションを失ってしまいます。そしてそれは、「失敗から学ぶ」機会を奪い、「失敗を乗り越えて成功する」機会をも奪います。その課題で成功しなければ、自己評価は低いまま。一生セルフ・ハンディキャッピングをし続けることになるやもしれません。

 

対人関係にも自分のモチベーションにも影響を与えるセルフ・ハンディキャッピングはやめたほうがよさそうです。自己評価も他者評価も対人関係も、悪いよりは良いほうがいいですから。

 

しかし、それでも、ついつい、セルフ・ハンディキャッピングをしてしまいそうになる。「時間がなくて・・・」「知識不足で・・・」と。そんな時、私は、自分の中にある問題点を見つめるようにしています。「時間がないのは、時間管理ができていない自分の責任。」「知識不足なのは、知識を補おうとしてない自分の努力不足。」これらを他者に話すことは、時間管理力のない人間、努力不足の人間であると自らアピールしているようなものですよね。これを意識すると(半分ぐらいは)言い訳の言葉を呑むことができます。

 

自分が何を目指しているか考え、

それを実現した自分を思い描き、

そこへのチャレンジを邪魔するのはセルフ・ハンディキャッピングだと認識し、

もしセルフ・ハンディキャッピングをしてしまいそうになったら自分を他者の目で見つめる。

 

もし私と同じようにセルフ・ハンディキャッピングをしてしまいがちな人は、上記の方法を一度試してみてください。この4つのステップはWOOP(ガブリエル・エッティンゲン著「成功するにはポジティブ思考を捨てなさい―願望を実行計画に変えるWOOPの法則」講談社)という方法を利用しています。

 おっとそろそろ会議の時間。今日の議題、時間がなくて資料が十分ではなくてすみません、というお決まりのひとことはやめておくことにしましょう。

 

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磯 友輝子(Yukiko Iso)
プロフィール
専門:対人社会心理学
略歴:日本大学国際関係学部、名古屋大学文学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学院助手、本学こども心理学部講師、准教授を経て現職。