第63回 研究の第一歩

投稿者:田澤 佳昭

昨年の夏休み、小学3年生の子どもが、「わがまち探検」という「社会」の宿題をやるというので、子どもといっしょに出かけました。社会の教科書を開いてみると、川に沿った場所に、工場や緑地、住宅街や商店街があることに気づかせ、その理由とともに考えさせるようになっています。なるほど。人間が生活していくうえで大切な「水」を中心に考えるわけです。

幸い家の近くには、昔ビール工場で、現在はショッピングモールになっている場所があったので、まずは、昔のビール工場について調べることになりました。でも、その工場のあった周りを実際に歩いてみると高台で、二つの大きな川に挟まれてはいるものの、川の水を工場に引入れるのには難しそうな場所です。ビールを作るには原料となるたくさんの水が必要だったはずです。ビールを詰める瓶の洗浄にも水は欠かせませんから、水なしでは済まされません。なぜ、水を引入れにくい高台に工場を作ったのか?小学3年生には大きな謎でした。

謎を解くヒントは、授業のノートの中にありました。小学校を建てる時に発掘されて学校に保管されている「木樋」を観察して、現在の小学校の敷地にあった江戸時代の大名屋敷に、玉川上水から水を引く水路として使われていたものだと学んでいたのです。ノートを見直して、工場の近くに水路があったのかもしれないと思いつきました。

でも、すぐに謎を解くことはできませんでした。というのも、工場はもちろん、水路など、現在はまるで見当たらないのです。そこで図書館で、古い地図を調べることにしました。すると今は舗装された道路に水路が流れていたことがわかりました。水路の水が大きな道路を鉄樋で渡っていたり、トンネルの上を渡されていたりしたこともわかりました。

実際に水路のあったルートを歩いてみると、古いビルの壁面、マンション脇の空き地や駐車場など、いたるところに水路のわずかな名残を発見することもできました。驚くことに、毎日の通学路の脇にある細長い駐車場が、昔の水路にふたをして作られていたこともわかりました。また、水路の通っていた道は、ほとんど平らに見えるような道なのですが、実は少しずつ確かに下っているということも体感できました。こうして今まで何気なく見慣れていた景色も、まったく違うものに見えるようになったのです。それまで見えなかったものが見えるようになった瞬間です。

ここに書いたことは、小学校で初めて「社会」を学ぶ子どもの学習活動の一端です。でも、自分で疑問を見つけ、さまざまな授業で学んだことを活用し、図書館で文献や資料を調べたり、実地調査をしたりして、疑問に思ったことを解き明かしていく過程は、大学の学びと共通です。もちろん、小学3年生と大学生とでは当然、解明すべき課題も、扱う知識やデータの範囲・難易度も異なります。それだけに、大学生になれば、もっと違った景色が広がっているように見えるはずです。

ふだん道を歩くときには、ちょっと意識して顔をあげて、周囲を見まわしてみてください。「何でここに…」という疑問が見つかるかもしれません。そしてぜひ、その謎解きにチャレンジしてみてください。研究の第一歩は、身近なところにあるものなのです。

 

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田澤 佳昭(Yoshiaki Tazawa)
プロフィール
専門:国際政治・国際法
略歴:日本大学 法学部 政治経済学科 卒業
日本大学大学院 法学研究科 政治学専攻 博士後期課程 単位取得退学
シドニー大学経済学部行政学科(国際関係論)及アジア研究学部 客員研究員
道都大学 短期大学部 経営科 専任講師
道都大学 経営学部 経営学科 専任講師・准教授