第69回 迷いから途は決まる~人はいつまでも謎~

投稿者:その他

心理学を専攻していると分かると、「へぇ、私の心分かります?今どんな気持ちか当てて見て!」と言われることがあります。そのような際には、「いや、なかなか人の心って難しくって、ずっと研究しているのですよ。」と答えると、大抵はがっかりされます。多くの人は、心理学者に占い師や霊能者「的」イメージを重ねるようです。心理学検定の普及、国家資格公認心理師の成立など、そして、自治体や大学主催の市民向け講座の増加などのお蔭かこのような淡い期待(誤解)を近年は払拭しつつあるようです。

人文社会科学系の学部に限らず選択科目であろうと心理学の履修率は他科目に先んじて1,2位を競うものです。全国的には「科学的」心理学の知識を持つ人は相当の人数になるはずです。本学では、他大学の追従を許さないほどの多彩な学びができます。大きな強みの一つと考えていますが、学生、卒業生はどう感じているのでしょうか。

私は、高校生の時に、それまでは化学反応に関心があったのですが、大きな方向転換で、不安や心の変化に興味を抱き、心理学を学ぼうと決めました。大学では、複数の学部にあった心理学専攻のどこにしようかと悩みました。結局、「心理学は応用、実践されるもの、だから基本を学ぶことこそ重要」との教員のことばに納得し、文学部へ。そこでは実験こそが心理学そのものという風土に多少の反発を覚えました。当時、精神神経科のサイコロジストをしていた先輩のところへ通い、臨床の手ほどきを受けました。その先輩は、心理学の基礎をしっかり学ばないと、患者さんに接した際に自分のぶれや思い込みに気づかないでしまうリスクがあるとの言で基礎を学び続けました。

卒論のテーマにも悩みました。不安によって行動はどう影響されるのか、さらに臨床場面につながる研究はできないかと考え、不安研究の一線にいた他大学の先輩(後の恩師)を頼り、指導を受けることになりました。来談者と面接者の基本となる二者関係の発言と不安特性との関係を捉えることをテーマとしました。恩師には臨床場面での研究を勧められたのですが、コミュニケーション過程自体への関心から、対人場面の特徴(対面、非対面)、視線や身体動作などのチャネル、対人関係の種類(親密さ)などと社会心理学の研究をしてきました。

人生では悩みの岐路が多くあります。私も進路、研究室、研究テーマ、次の研究で扱う要因はと悩み続けてきたなと思います。その時々に何が決め手になったのでしょう。選ばなかった選択肢の先は分かりません。でも、「こっちだ」と何かが閃いたのだと思い込むことにしています。そんな感性を大事にしたいものです。

 

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大坊 郁夫(Ikuo Daibo)

プロフィール

専門:対人・社会心理学
略歴:北海道大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程退学
札幌医科大学助手、山形大学教養部専任講師、助教授
北星学園大学文学部教授、社会福祉学部教授
大阪大学大学院人間科学研究科教授
同大学名誉教授、東京未来大学学長、教授