第80回 日本にいる外国籍の子どもたち

投稿者:田中 真奈美

 2015年から、日本に滞在している外国籍の子どもたちの教育問題について、他大学の先生、大学院生と一緒に研究チームを作り、研究をしています。自文化とは違う他文化で教育を受けるということは、色々な問題があります。文化や学校文化が違うだけではなく、母語とは全く違う言語である日本語で教育を受けることになるからです。
 言語には二つの能力があるといわれています。ひとつは、基本的な会話ができる程度の基本的コミュニケーション能力(basic interpersonal communicative skills BICS)や基本的対人伝達能力と言われる言語能力です。もう一つは抽象的なことを考えたり、理解したりする能力である学習に必要な認知的言語能力(cognitive academic language proficiency CALP)や認知的・学習言語能力といわれるものです。BICSは、だいたい3年ぐらいで修得することができ、日常会話には困らなくなります。でも、CALPは、 5年から 7~10年は修得するのにかかるといわれています。そのため、第二言語である日本語で学習するということは、外国人の児童・生徒にとってはとても大変なことだということが分かると思います。学校文化への適応の問題は様々ですが、授業についていけるほどの言語能力を身につけるのには、大変努力と時間がかかります。そのため、日本語能力がないために、低学力というレッテルをつけられ、自分に対して自信をなくしてしまう児童・生徒はたくさんいます。
 もう一つの問題点は、外国人児童・生徒に対して、差別意識があるということです。特に東南アジアから来た児童・生徒に対しては、無理解が原因で、いじめが発生することもあります。こういう経験をすると、子どもたちは自分の文化に自信が持てなくなり、どうせ勉強したって、高校へは進学できないしというように勉強への意欲がなくなってしまいます。
 ここで皆さんに考えてほしいことは、日本語が十分に理解できないからといって、学力が低いということではないということです。外国籍の子どもたちは、母語で豊かな知識をもっていることも多くあります。その人の能力を言語力だけでは判断しないでほしいと思います。
 また、日本で滞在している外国籍の子どもたちの多くは、経済的に恵まれてないことが多いです。両親、そして兄弟も朝早くから遅くまで働いていることが多いです。そうなると、家事をするのは、学校に通っている中学生や小学生の子どもたちです。子どもたちは、放課後、級友と遊ぶことが、家事をするため時間がありません。そして、子どもが家事をすることは、海外では当たり前のことも多いのです。自分たちの文化を基準に判断せず、ぜひ違う文化に対して、理解する視点を持ってほしいと思います。
 アメリカでは憲法が教育権について明記してはいないため、裁判の判例法により、自分たちの学習権を獲得していたという歴史があります。例えば、英語だけの授業では理解ができないからと訴訟をおこした中国人の中学生がいます。教育の機会は、均等に与えられるべきものです。このことは、覚えておいてほしいと思います。

 時々、なぜ外国人の子どもたちも公立の学校に通学できるのかという質問を受けることがあります。税金を払っていないのに、どうして入学できるのかという質問を受けることもあります。アメリカでも同様な意見がありましたが、連邦最高裁判所の判断により1982年以降すべての子どもが教育を受ける権利を保障されています。しかし、不法滞在の子どもの中には学校に行けていない例もあり、課題は残されています。
 皆さんも少し見方を変えてみましょう。もし、あなたが全く分からない言語を話す国で暮らし、現地の学校に通うことになり、何も分からない中で一日中クラスにいなければならなくなったことを想像してみてください。日本で暮らす外国籍の子どもたちのことが理解できると思います。また、海外で暮らしている多くの日本人の子どもたちは、現地の学校に通っています。その場合、外国人だからという理由で、追加の授業料を払う必要がない場合も多くあります。日本人の基準だけではなく、少し視点を広げ、大きな位置から物事を見てみませんか。そうすることによって、見えてくるものがあります。
 日本に来る外国人の数は、年々増加しています。これからもっともっと増えるでしょう。みなさんの日常生活の中で、異文化に触れる機会は多いと思います。自分の常識と違うことに出会った時、どうして?と疑問をもつようにしてください。そうすることによって、広い視野から、ものを見ることができるようになります。なかなか難しいことかもしれませんが、少し努力すればできますよ。そして、違う見方や価値観を身につけてほしいと思います。

 *アメリカの訴訟の詳細に関する情報は、研究グループの一人 一橋大学大学院博士後期課程 奴久妻駿介氏からの情報提供です。

 

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田中 真奈美(Manami Tanaka)

プロフィール

専門:国際多文化教育学
略歴:サンフランシスコ大学教育学部博士課程修了。サンフランシスコの保育所、小学校、高校、大学で教育経験を積む。研究領域は異文化適応の諸問題で、海外長期滞在者について研究している