人の目

2021年2月19日 投稿者:横畑 泰希

 「人目に晒される」、「人目が気になる」、「人目を憚る」、「人目を避ける」など、人目に纏わる言葉は枚挙に暇がありません。どうしてもマイナスのイメージが強いのですが、決してそうとばかりは言えません。人の目があると見られているという緊張感の中でできる。それが大きいんだけど、今年はそれがないからね。。これは、非常事態宣言中の今月1日、プロ野球(NPB)・福岡ソフトバンクホークスの王貞治会長が取材に応じた言葉です。今年のNPBのキャンプは全球団が無観客の中で実施されますので、ファンという人の目がありません。人の目があると緊張感は高くなりますが、それが良いパフォーマンスを生むとの話でした。

 この話を聞き、私のゼミの4年生を思い出し、妙な納得感がありました。先月29日に卒業論文を提出した4年生は、例年に比べて歩みが一段とゆっくりだったように思えます。今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、春学期のゼミは全てリモートでの実施でした。その関係で、3年生と4年生のゼミは完全分離で行なわざるを得ず、4年生が後輩の前で発表したり、後輩の発表にコメントしたりという機会を作れずにきました。後輩から先輩として見られる「目」がなく、これにより緊張感が生まれず、のんびりとした雰囲気になってしまったのかもしれません。

 子どもの中には、人の目に敏感な子どもが少なくありません。そのほとんどは負の緊張感であったり、不安を喚起させたりするような敏感さです。それまでの短い人生の過去体験の中で、「人の目」に対する負の敏感さを身につけてしまったのかもしれません。もちろん、その敏感さが全て負につながるわけではなく、「人の目があるからちゃんとする」という心持ちも大事なことです。ただ、それでパフォーマンスが低下してしまえば可哀そうな話です。

 人の目がよい緊張感を生み、よいパフォーマンスを発揮できるようになることは理想です。だからこそ、幼少期の子どもに関わる大人たちの「人の目」が、安心感を抱かせるようなものでなければならない。その大人たちの「人の目」は、子どもにとって「いつでも見守られているという安心感」でなければならない。そう信じています。

――――――よこ

横畑 泰希(YOKOHATA Taiki)

プロフィール

専門:発達臨床心理学・意識心理学
略歴: 淑徳大学大学院博士後期課程単位取得退学。臨床発達心理士、産業カウンセラー。現在も心理相談、発達相談、カウンセリング、プレイセラピーに携わっている。



 新型コロナウイルス感染症の拡大で、私が一番困っているのは「研究ができない」という事です。心理学の研究方法は、実験法、調査法、検査法、観察法、面接法など様々あります。私が主に用いるのは、観察法や面接法を組み合わせた「フィールドワーク」です。現場(フィールド)に出て、対象者と会い、研究する。感染症対策の観点から考えると、こうした一連の仕事(ワーク)ができないわけです。今も、新型コロナに振り回されてかなり困っています。

 そして、同じように困ったのが、「心理学の研究法の遠隔授業がやりにくい」という事です。実験等のデモンストレーションを動画で見てもらったり、アンケート調査をオンラインで経験してもらったりしましたが、限界がありました。学生自身が身をもって体験できる方法はないかと頭をひねったところ、ふと、「オンラインでインタビュー(面接法)をやってもらおう!」とアイデアが浮かびました。そのオンライン・インタビューは、以下のようなものでした。

 提出されたレポートの内容に、目を見張りました。研究法をはじめて学ぶ1年生(再履修生もいます)が、自発的に複数名にインタビューをし(なんと10人にインタビューした学生も!)、1時間も相手の話を聞き取り(盛り上がったようです)、かなり丁寧に考察を書いていました。そうしたレポートのほとんどに、「新型コロナで経験したことを改めて聞いてみると、発見や教えられることが多く、新鮮な驚きがあった」と書かれていました。

 別の四年制大学に通う友人、短大や看護学校、専門学校で学ぶ友人、警察学校で寮生活を送りながら学ぶ友人、社会人として働いている友人など、それぞれ経験内容の細部は違っても、自分と他者の経験を比較し、客観的に捉え直すことで新たな発見や新しい見方を得ることができる。普段、なかなか会えない友人にオンラインでインタビューをすることで気分転換になると良いなと思って課した課題でしたが、想像以上に学生自身が熱心に、しかも深く考えながらインタビューを実施してくれた様子がレポートからありありと感じられました。心理学の研究方法が「深く考えるための道具の一つになる」ことを、改めて実感しました。

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横地 早和子(YOKOCHI Sawako)

プロフィール

専門:認知心理学、教育心理学
略歴:名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了。博士(心理学)。東京大学大学院教育学研究科特任助教を経て、現職。

 スマートフォンを使っていると,「週間レポートがあります; 画面を見ている時間は先週から○%増えました。」と通知されることはありませんか?これは“スクリーンタイム”の機能のひとつですが,スマートフォンのスクリーンを見ている時間(≒使っている時間)をいかに管理するか,という問題は子を持つ親に共通する大きな悩みといえるでしょう。

 子どもに「携帯を持たせない」,「iPadを使わせない」,「動画やゲームの時間を制限する」…これらは世界をリードするIT関連企業のトップ,すなわちMicrosoft共同創業者ビル・ゲイツ,Apple元CEOスティーブ・ジョブズ,Google CEOサンダー・ピチャイらが発したメッセージです。3,4年ほど前から,いわゆるGAFA等のIT関連企業が集まるシリコンバレーの親たち,つまりシリコンバレー・ペアレンツが求める幼児教育・保育が注目されてきました。世界で最もITへの親和性が高いシリコンバレーで,子どもたちはIT/デジタルデバイスから距離をおき(“tech-free”あるいは“screen-free”),自然の中で,体を動かし,自由に遊ぶことが推奨されているのです。外国語・体操・プログラミングなどの早期教育の志向とも一線を画します。最先端のIT/デジタルデバイスやサービスを開発し,その利便性と危険性を熟知しているからこその教育観・保育観に,私たちはもっと耳を傾ける必要がありそうです。とくに0-2歳の間に,身近な“自然”環境に対して主体的に関わりながら自由に遊ぶ体験を保証された子どもは,4-5歳になった時に「粘り強く挑戦する」「友達と協力する」「自分や他者の気持ちとうまく折り合いをつけられる」といった“社会情動的スキル”の育ちがよくなることがわかってきました。

 2020年,コロナ禍で子どもたちのデジタルデバイスやSNSの使用時間が増えたこと,それに伴い子どもたちのメンタルヘルスの問題が増加してきたことを示す研究が相次いで報告されています。IT/デジタルデバイスとのよい付き合い方,教育や保育への活かし方を今こそじっくり考えてみるときかもしれません。

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柳生 崇志 (YAGYU Takashi)

プロフィール

専門:幼児教育学、保育心理学

略歴:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学。子育て環境と子どもの発達の関係について研究している。沖縄女子短期大学准教授を経て2020年より現職。

新年あけましておめでとうございます。

本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 昨年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延によって社会が大混乱となり、さまざまな制限を強いられる1年でした。身近な生活においても、外出自粛が要請され、遊びに行くことも、仕事に行くことも、学校に行くことさえもできない日々がありました。そのような自粛生活の中、身体を動かす機会がすっかり減ってしまい、「コロナ太り」なんて言葉も生まれ…。あるデータによると、日常生活での歩数は、世界中で7〜38%程度減少(2019年比)しており、日本でも約10%減少しているようです。

 もちろん、最優先すべきはCOVID-19の拡大を防止することですが、「新しい生活様式」の定着にともなって、身体“不”活動も当たり前になってしまうことは懸念されるところです。「幼児期運動指針(文部科学省)」は、「毎日合計60分以上、楽しく体を動かすこと」を幼児期における身体活動量の目標として奨励しています。また、世界保健機構は5歳〜17歳の身体活動量推奨値として「1日60分以上」、「アクティブガイド(厚生労働省)」では18歳〜64歳の目標として「1日60分、元気に身体を動かすこと」を推奨しています。

 ここでポイントとなるのは、いずれも「60分の身体活動」を目標としているということ、運動ではなく「身体活動」という点です。身体活動とは、まさに「身体を動かすこと」であり、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作を指します。階段の昇り降りも部屋の掃除も「身体活動」です。収束の見通しが立たない自粛生活の中でも、家の中でじっと動かないまま過ごすのではなく、生活の中で身体を動かし、活動的に過ごすことを心がけましょう!

 最後になりましたが、医療従事者をはじめ、世界中でCOVID-19と闘う方々に心から敬意を表するとともに、深く感謝いたします。そして、少しでも早くこの危機を克服し、穏やかな日常が戻ることを祈って止みません。

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真家 英俊(MAIE Hidetoshi)

プロフィール

専門:運動生理学、スポーツバイオメカニクス
略歴:東京学芸大学大学院教育学研究科修了。体力医学研究所に所属後、三幸学園スポーツ系専門学校(東京/横浜)の教員を経て現職。

ご存じの方も多いと思いますが、「心の傷」をトラウマと呼びます。最近ではよく耳にする言葉ではないでしょうか?そして、トラウマという言葉を聞いて、自分には関係ないと思っている人も多いと思います。

 

そのような人は、トラウマというのは事故や自然災害などの死ぬような経験しない限りトラウマとは呼ばないと思っているからかもしれません。

 

一方、「○○先生に強く叱られたことは、これは私にとってのトラウマだ」と思っている人もいるでしょう。日常で誰もが経験する可能性のある、思い出すと苦い経験とか、凄くイヤな記憶といったものをトラウマと感じている人もいると思います。

 

それでは、どちらが専門的にみて正しいのでしょうか?…

 

これはトラウマの専門家の間ではどちらも正しいと考えられています。前者の誰の目からみても心理的ショックが大きいものは、トラウマ(Trauma)の頭文字の”T“を大文字で書いて”Big T”(ビッグT)と呼んでいます。

 

そして、後者の誰でも経験する可能性がある、仕事上の上司からの叱責(しっせき)や、他者からの暴言、または自分が直接経験しないでもショックな話を聞いたり、誰かが暴力を受けたのを見た経験などは、トラウマ(Trauma)の頭文字の”T“を小文字で書いて”Small t”(スモールt)と呼んでいます。

 

ビック”T”の場合には、1回の経験でもPTSD(心的外傷後ストレス障害)という病になる可能性があります。スモール”t”では、1回だけの経験では大きな心理的な問題になる可能性は低いです。しかしスモール”t”でも複数回経験すると、それだけ心身への有害な影響も大きくなります。

 

例えば、DV(父親が母親に暴力を振るわれている等)を何度も見たり、また毎日のように親から暴言を受けたりすると、その経験の無い人と比べて、脳の一部の体積が変形していることも研究でわかっています。

 

このように幅広くトラウマを認識することは、日常生活で「言葉で人を虐めている」人にとって日常の行動を省(かえり)みることにつながると思います。また同時に、実は家庭や学校で、積もり重ねてきたスモール”t”の影響に苦しむ人にとっては、自己理解を深めることにつながって適切な援助を求めるきっかけになると思います。私が最近出版した『毒親の呪いを解く音楽CDブック』(マキノ出版)も親からのトラウマ理解を深め、その影響に苦しめられている方々の助けになる本となっていますので、ご関心のある方はご覧下さい。

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藤本 昌樹 (FUJIMOTO Masaki)

プロフィール

専門:臨床心理学、発達心理学
略歴:東京学芸大学大学院心理学分野修了、東京医科歯科大学大学院修了。公認心理師、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士。子どもから成人の心理療法を現場で実践している。

 みなさん、こんにちは。心理専攻の平部です。今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、私もオンライン授業のための動画作りをすることになりました。Microsoftのパワーポイントでスライドを作成し、そこに音声を吹き込んで録音していきます。いつもの対面授業でしたら、スライドを示しながら大勢の学生の前で話すわけですが、今回はパソコンを目の前にして話しています。4月からこのような慣れないことを始めてみて一番感じたのは、「思ったよりも、うまく言葉が出てこない」ということです。もともと私は話すのがうまくなくて、対面の授業でも、聞き取りづらいと言われることがあります。それが、動画作成の音声吹き込みのためにパソコンの前に座ると、ますます頭が働かない、言葉が出てこないという状態になります。

 私自身の授業のうまいへたももちろんあるのですが、普段の対面授業の時の言葉が、私が頭で考えて口から発するだけのことで成り立っているのではないことが、改めてわかりました。まず、椅子に座っていること自体が、授業用の言葉を発しづらくしています。対面授業の時は、立って身振り手振りを交えながら話しますからね。その他にも、今日は授業があるぞと思いながら気持ちを整える通勤時間、多くの学生が行き交っている大学構内の雰囲気、教室の機材や配付資料を準備する時間、いざ教室で大勢の学生を目の前にした緊張感、そしてもちろん、授業で実際に話しているときの学生の反応など、すべてのものが合わさり、相互に作用しあうことで、私の中から言葉が紡ぎ出されてくるのだなと思いました。対面が良いか、オンラインが良いかはさて置き、場の力や聞いてくれている相手の存在の重要性を毎回実感させられる体験となっています。慣れ親しんだやり方からの変化は誰にとってもストレスですが、そこから大事な気づきが得られることもあるのかもしれませんね。

 

平部 正樹 (HIRABE Masaki)

プロフィール

専門:臨床心理学
略歴:早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。東邦大学助手、目白大学専任講師等を経て、現職。医療、教育、産業等での心理臨床活動に従事してきている。公認心理師、臨床心理士。

笑って過ごそう

2020年11月20日 投稿者:日向野 智子

 この数か月、小学校2年生の娘と私の間には、ケンカが絶えない。その原因のほとんどが、基本的な生活にかかわることである。最初は、私も適度な注意をしている(つもりである)が、娘はきかず、まるで効果がない。娘は口が達者な上、気に入らなければ、屁理屈はもちろん反抗的な態度も目立つようになってきた。そんな娘に対し、気の短い母は、だんだんとエスカレートする。

 そしてついに先日。真向かいに正座して叱っている最中に、母の怒りが大爆発した。大学ではストレスマネジメント論を担当し、アンガーマネジメントなるものも知識があるのだが、現実は思うようにいかない。まさに、「わかる」と「できる」は異なり、知識やコンピテンスがあってもスキルを磨かなければ、現実はこの通りである。娘は、泣きも身じろぎもせず、母を睨み返してきた。実に逞しいのだが、母子の関係性や娘が受けた精神的な影響、自己コントロールのできない「キレる」母という存在は、今後娘が成長する過程で、看過できない問題である。もとより、ケンカや叱責の原因は何ひとつ解決していない。それに、お母さんは娘に嫌われたくない。その日からしばらく、今後思春期を迎え、ますます難しくなっていく母子関係の先行きを案じ、どうしたもんかと考えを巡らせていた。

 それから2週間ほどたつ。そして、この4日間、娘と私はケンカをしていない。この数か月、私の余裕のなさや、成長するにつれて反抗的な態度を増す娘との関わりの中で、以前よりも笑顔が減ったなと気づいた。そういえば、娘が保育園に通っていたころ、いつも思い切りくすぐって起こしていたことを思い出した。そうして、余裕がないながらも、朝を楽しく笑顔でスタートしていた。何より、今は私が娘に笑顔を向けていないのではないか。

 そこでこの4日間、就寝時と起床時に、とにかく娘をくすぐりまくっている。娘は、奇声を上げながら、ドタンバタンと笑い転げる。私は、逃れようとする娘を抑え込みながら、全力でくすぐり続ける。母子ともに、ゼーゼーハーハーしながら思い切り笑うと、不思議な満足感を覚える。

 様々な学術的研究から、笑顔や笑いは、NK細胞を活性化させることや、エンドルフィンやセロトニンなど、人の幸福感を高めるような内因性の神経伝達物質を生成することが明らかにされている。また、笑顔は伝播するものであり、人の笑顔や笑いをみると、ミラーニューロンの働きにより、見た人も同じように笑顔になるという。私と娘のくすぐりを通したふれあいは、多くの笑顔と笑いを生み出すだけでなく、このようなよい効果をもたらしてくれているのであろう。何より、笑顔を見て笑顔になるということは、コミュニケーションにおける共感であり、共行動は、互いの一体感を高めてくれる。しかめ面にはしかめ面が返ってくるはずであり、それに付随する感情は快ではない。根本的な問題は解決されたわけではないが、笑顔を増やすことによって、良い効果がもたらされ、心の余裕も生まれるだろう。そうすれば、私と娘の日々の生活や注意の仕方、受け取り方も変わるかもしれない。くすぐり始めて5日目。母としての自分を省みることを忘れることなく、今しばらく、朝晩のくすぐりタイムで笑顔を楽しみたいと思う。

 

※口角を上げて笑顔を作ったりテレビをみて笑ったりすることでも、笑顔や笑いの効果が得られるそうです。コロナ禍だからこそ、みなさんも笑って過ごせますように。

 

日向野 智子(HYUGANO Tomoko)

プロフィール

専門:対人社会心理学
略歴:2003年、昭和女子大学大学院生活機構研究科博士課程修了。博士(学術)。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師を経て、2013年より現職。