学問は模倣から始まる

2019年5月31日 投稿者:紙本 裕一

どうして人間は話を聴こうとするのでしょうか。

授業でも社会でも黙って話を聴きなさいと言われた経験は誰しもがあると思います。
「黙って話を聴くことによって何が得られるのか?」というのが私の研究のテーマです。

そのテーマに対する私の答えが「模倣」です。模倣は対話とは異なります。
あくまでも話し手は伝授に専心し,聴き手はそれをありのままに受け止めることが求められます。

模倣は自己の人格を形成する最初の入り口といっても過言ではなく(厳密には違うのかもしれませんが),口癖,しぐさ,お金の使い方など,まねをする内容は様々ですが,師匠と呼ばれる絶対的な信頼がある人の何かを模倣します。
まねをすることで,わたしという「形」を形成していきます。
ここでの「形」とは見よう見まねで得られたものであり,不安定で不完全な状態です。壊れることもあります。
師匠の動きを見れば,(師匠自身も)何回も同じことを繰り返していることに気づきます。
同じことを繰り返していく中で,余計なものをそぎ落として己の「形」から「型」を作っていきます。

主体的な学びやアクティブラーニングの本質にあるのは主体性です。
主体性を一言でいうならば極端かもしれませんが,「自分から行動する」です。
それを外化と定義する人もいますが,それだけではないということに気付いてほしいのです。
かの科学者ポアンカレに限らず,科学教育研究者の板倉聖宣先生や認知心理学者の生田久美子先生も指摘するように,模倣を断ち切ることは創造を失うことになります。
主体的な行動を支える原動力は知識ゼロベースでは成立しえません。
自力の経験による集積値だけでは井の中の蛙になる可能性を持ってしまいます。
模倣の中から余計なものをそぎ落とす基盤の上に新しいものを創造する原動力があってこそ,自分から行動できる理由を説明することに対して理に適っているように思います。

誰を模倣するのかについてはすぐに決まるものではありません。
でも,生きている中で少なくとも1人,この人の生き方を模倣したい,考え方を模倣したいと思える人に出会えるはずです。

自分自身への戒めも込めて最後になりますが,これから入学してくる高校生の皆さんや大学の学生の皆さんに対して,私自身が生きるお手本として,誰かの「形」になる人間になれるよう目指して精進していきます。

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紙本 裕一(Yuichi Kamimoto)

プロフィール

専門:数学教育学

略歴:広島大学大学院教育学研究科修了。哲学や人間学に関心を持ち、人間の固有性(人を信じること、自然科学的信仰、AIの違い、思考形式、謝罪、考えることの意味など)について研究をしている。