笑って過ごそう

2020年11月20日 投稿者:日向野 智子

 この数か月、小学校2年生の娘と私の間には、ケンカが絶えない。その原因のほとんどが、基本的な生活にかかわることである。最初は、私も適度な注意をしている(つもりである)が、娘はきかず、まるで効果がない。娘は口が達者な上、気に入らなければ、屁理屈はもちろん反抗的な態度も目立つようになってきた。そんな娘に対し、気の短い母は、だんだんとエスカレートする。

 そしてついに先日。真向かいに正座して叱っている最中に、母の怒りが大爆発した。大学ではストレスマネジメント論を担当し、アンガーマネジメントなるものも知識があるのだが、現実は思うようにいかない。まさに、「わかる」と「できる」は異なり、知識やコンピテンスがあってもスキルを磨かなければ、現実はこの通りである。娘は、泣きも身じろぎもせず、母を睨み返してきた。実に逞しいのだが、母子の関係性や娘が受けた精神的な影響、自己コントロールのできない「キレる」母という存在は、今後娘が成長する過程で、看過できない問題である。もとより、ケンカや叱責の原因は何ひとつ解決していない。それに、お母さんは娘に嫌われたくない。その日からしばらく、今後思春期を迎え、ますます難しくなっていく母子関係の先行きを案じ、どうしたもんかと考えを巡らせていた。

 それから2週間ほどたつ。そして、この4日間、娘と私はケンカをしていない。この数か月、私の余裕のなさや、成長するにつれて反抗的な態度を増す娘との関わりの中で、以前よりも笑顔が減ったなと気づいた。そういえば、娘が保育園に通っていたころ、いつも思い切りくすぐって起こしていたことを思い出した。そうして、余裕がないながらも、朝を楽しく笑顔でスタートしていた。何より、今は私が娘に笑顔を向けていないのではないか。

 そこでこの4日間、就寝時と起床時に、とにかく娘をくすぐりまくっている。娘は、奇声を上げながら、ドタンバタンと笑い転げる。私は、逃れようとする娘を抑え込みながら、全力でくすぐり続ける。母子ともに、ゼーゼーハーハーしながら思い切り笑うと、不思議な満足感を覚える。

 様々な学術的研究から、笑顔や笑いは、NK細胞を活性化させることや、エンドルフィンやセロトニンなど、人の幸福感を高めるような内因性の神経伝達物質を生成することが明らかにされている。また、笑顔は伝播するものであり、人の笑顔や笑いをみると、ミラーニューロンの働きにより、見た人も同じように笑顔になるという。私と娘のくすぐりを通したふれあいは、多くの笑顔と笑いを生み出すだけでなく、このようなよい効果をもたらしてくれているのであろう。何より、笑顔を見て笑顔になるということは、コミュニケーションにおける共感であり、共行動は、互いの一体感を高めてくれる。しかめ面にはしかめ面が返ってくるはずであり、それに付随する感情は快ではない。根本的な問題は解決されたわけではないが、笑顔を増やすことによって、良い効果がもたらされ、心の余裕も生まれるだろう。そうすれば、私と娘の日々の生活や注意の仕方、受け取り方も変わるかもしれない。くすぐり始めて5日目。母としての自分を省みることを忘れることなく、今しばらく、朝晩のくすぐりタイムで笑顔を楽しみたいと思う。

 

※口角を上げて笑顔を作ったりテレビをみて笑ったりすることでも、笑顔や笑いの効果が得られるそうです。コロナ禍だからこそ、みなさんも笑って過ごせますように。

 

日向野 智子(HYUGANO Tomoko)

プロフィール

専門:対人社会心理学
略歴:2003年、昭和女子大学大学院生活機構研究科博士課程修了。博士(学術)。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師を経て、2013年より現職。