第101回 ノートづくりは事典の編纂作業

2020年2月28日 投稿者:磯 友輝子

 実は、私、大学生の頃、かなりモテたんです!
「磯ちゃん、〇〇の授業のノート貸してくれない?」
・・・正しくは、私ではなく、「私のノート」がモテました。
 
私が学生の頃は、授業の教材といえば、テキストと、
図表だけがペタペタと切り貼りされた配布資料と、自筆のノートが全て。
自由すぎる先生の板書と口述を
上手にまとめたノートを持つことが単位修得の絶対条件でした。
仲の良い友人とは互いにノートを見せ合い、不足した情報を補ったものでした。
 
さて、貸してと言われて貸したものの、
試験直前まで戻ってこなかったり、又貸しされたりすることも多々ありました。
大学のコピー機の列に並ぶと、前に並ぶ面識のない学生が手に持っているのが、
自分のノートのコピーだったことに驚愕したこともありました。
自分が貸した相手に裏切られたような腹立たしさと悲しさと、
一方で、自分のノートが価値のあるものだと、
さらには私自身が価値あるものだと認められたような(社会的承認といいます)な嬉しさも感じ、
複雑な心境だったことを覚えています。
 
しかし、私も、貸してほしいと言われる頻度が増えると快くはありません。
一瞬、貸すのを渋るそぶりを見せると、
「今度、学食をおごるよ」という一言がついてきたり、
お菓子が手渡されたりして、相手も借りる技術を磨いてきていたように思います。
 
こんなふうに、交渉の場面で相手が引き受けてくれるかどうかを悩んでいるときに、
お菓子や学食などの特典をつけて、相手の気持ちを後押しする方法を、
社会心理学ではザッツ・ノット・オール・テクニック(特典付加要請法)といいます。
“That’s not all”とは、「これだけじゃないのよ」という意味で、
聞き手に次に続く内容への期待を持たせる言葉です。
直球でお願いをするよりも、引き受けてくれる確率が高くなるといわれます。
よく、通信販売などで、
「今ならこのノートパソコンにプリンターもつけます」としている方法ですね。
 
どんな方法だと要請や交渉がうまく展開するのかといったことは、
私が専門とする社会心理学では、
説得的コミュニケーション要請承諾法といわれる領域で検討されています。
 
ノートは、眠気と戦いながら(?)授業を聞き、
シャープペンシルの芯を減らしてノートに書きとめ、
授業外で調べた情報を加えてまとめあげたものであり、
その人にとって、いわば「授業の事典」といえます。
 
事典を編集する作業を通して、頭の中の事典にも情報が追加されていきます。
ノートを借りることはできても、頭の中の事典は借りることはできません。
作り上げられた頭の中の事典は、試験以外の機会にも使うことができます。
借りた人にお礼をするならば、学食やお菓子でもいいでしょうが、
プラスの情報をつけて事典に1ページ追加してお返ししてはどうでしょうか。
 
近年はプレゼンテーションソフトの呈示画面を配布資料としたり、
デジタルデータで資料を提供するなど、ノートの取り方も変わってきています。
最近は、授業のスライドをスマートフォンのカメラで撮影する学生もいたりします(許可なく写真を撮るのは控えていただきたいですが…)。
こういったデジタルデータも、頭の事典にしっかりと加え、
「カラー百科」を編集することをぜひ目指してほしいと思っています。
 

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磯 友輝子(Yukiko Iso)

プロフィール
専門:対人社会心理学

略歴:日本大学国際関係学部、名古屋大学文学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学院助手、本学こども心理学部講師、准教授を経て現職。