第103回 国際政治経済学からコロナ・ショック後の世界を考える

2020年5月15日 投稿者:郭 潔蓉

 武漢を皮切りに猛威を振るった新型コロナウイルスは瞬く間に世界中に広がり、人々の日常生活をわずか数か月間で一変させてしまいました。されど、私たちが当たり前だと思っていたどの日常よりも、今回のパンデミックが深刻な影響を与えているのは経済活動ではないでしょうか。感染拡大の阻止が第一であることは言うまでもないですが、世界中で数多くの経営者が休業や廃業に追い込まれ、世界恐慌への危機感を高めています。2020年の1~3月の世界の経済成長率は前年同期比の-6.8%を記録し、リーマンショックをも上回る経済的打撃が世界各国を襲っていることも事実です。新聞各紙の見出しには「コロナ・ショック」の文字が躍り、世界経済を牽引してきた先進国も経済新興国も、突然舞い降りたブラックスワン(黒い鳥:事前に予測できない極端な出来事の例え)にたじろぐばかりです。
 そして、この未曽有の事態の出口を探る最中で、多くの関心を集めているのが「コロナ・ショック後の世界」です。1990年代から世界はグローバル化という名のもとに国境を越えた市場において、経営資源の往来を推進してきました。今日に至るまで、アジア経済危機、同時多発テロ、リーマンショックなどとブラックスワンは幾度となく舞い降りてきましたが、その都度世界市場は何とか乗り切り、市場主義経済というスキームを維持しつつグローバル化を進めてきました。しかし、今度のブラックスワンはかつてない強敵な上に私たちの想像をはるかに超えた破壊力をもってやって来たため、出口の後の世界が見えなくなってしまっている状況にあります。
 出口後の世界が見えない大きな要因は、国際情勢の不安材料にあると考えます。リーマンショック後は、まだ経済新興国に消費余力があり、特に当時中国が行った景気刺激策の4兆元対策が世界市場の下支えとなりましたが、今はその後遺症で地方政府や国有企業の債務が急増し、不動産バブルの崩壊による景気低迷に悩んでいます。一方で、米経済もリーマンショック後は回復への期待がある程度みられましたが、今やウイルス対策が手一杯で、2020年4月の失業率は戦後最悪の14.7%となり、立て直す原動力が見当たらない状況です。更に懸念をされているのが国際社会におけるリーダーの不在です。リーマンショック後は、米国がリーダーシップを大きく発揮しましたが、トランプ政権に移行してからは、内向きで自国主義に転じたことが国際情勢の不安定さを増長させています。
 しかし、どの国もこの逆境から得た教訓が多かれ少なかれあるはずです。見方を変えれば、これまで利己主義的な利益の追求に終始してきた市場経済の在り方を反省する機会を得たとも考えられます。岐路に立たされている今だからこそ、グローバル化の功罪を振り返り、もう一度世界と手を携えることの重要性を再確認するべきではないでしょうか。
 

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郭 潔蓉(KAKU Iyo)
プロフィール
専門:東・東南アジア地域の政治経済、国際経営環境分析
略歴:ボストン大学大学院国際関係学専攻修士課程、筑波大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。代表著書に『グローバル教育の現在』他。