第107回 「年齢アイデンティティ」

2020年10月2日 投稿者:島内 晶

「マイナス5歳肌を目指そう!」「若見えファッション」・・・

 これらのキャッチフレーズに対して、とても魅力的だと感じる世代がある一方で、

「このメイクだと大人っぽくみえる!」「大人っぽいファッション」・・・

 こちらの方が気になる世代もあります。
 

 この「大人っぽく」から「若く」見られたいという転換点はいつなのでしょうか。このことを考える際、ヒントとなるのが、「主観年齢(主観的年齢)」です。実年齢を「暦年齢」というのに対して、自分が自覚している年齢を主観年齢といいます。佐藤ら(1997)が行った調査では、子どものころは、主観年齢の方が暦年齢よりも高く、一方で、30歳代では男性は2~4歳、40歳代では4~5歳、50・60歳代では6歳、70・80歳代では6~7歳ほど、暦年齢の方が主観年齢よりも高いこと、すなわち実際の年齢よりも「若い」と感じていることが示されています。さらに言えば、この「自己若年視」は、20代前半から始まるとされていますので、先に述べた転換点というのは、そのあたりだといえるでしょう。

 ところで、先述の佐藤ら(1997)では、主観年齢に自分を同一視することを「年齢アイデンティティ」としています。私たちは、この年齢アイデンティティにそってふるまっていますが、時に、年齢にふさわしくない行動をとってしまうと、ひんしゅくを買うことがあります。例えば、高齢者が年齢にそぐわない無理な行動をとると「年寄りの冷や水」といわれてしまうことがあります。この際の年齢は、暦年齢です。高齢者とは、一般的には(現時点では)65歳以上を指しますが、主観年齢で考えると、65歳の人はまだ自分を50代と考えている可能性があります。さらに言えば、70歳代半ばくらいになるまで、自分を高齢者とは思っていないことが示されています。これらのずれを認識していないと、時として高齢者を傷つけることになりかねませんし、高齢者を正しく理解できないと考えられます。また、一方で、20歳代の若い世代が自分はまだそれほど「大人」ではないと認識し、無責任な行動をとるようなことがあったらどうでしょうか。それは、他世代や社会においても有益であるとは言えません。

 現在のコロナ禍の状況では、どの世代も、それぞれ自覚を持った行動が求められています。私個人の意見としては、高齢者が、年齢アイデンティティにそって「若々しさ」を謳歌するのはとても素敵なことだと思いますが、この状況下では、暦年齢が示す部分(例えば、抵抗力の低下など)があることも認識し、上手に折り合いをつけることも大事なのではないかと思います。そして、若い世代は、「自分たちは大丈夫」ではなく、他の年代に対しての思いやりが求められるのではないでしょうか。それこそ、「大人」の思慮深さをもった対応が必要なのではないかと思います。自分を守ることが他の世代を守ることにつながるといった、世代を超えたつながりというのが、まさにいま求められているように思います。

 

引用文献 佐藤眞一・下仲順子・中里克治・河合千恵子 (1997). 年齢アイデンティティのコホート差,性差,およびその規定要因 : 生涯発達の視点から 発達心理学研究, 8 (2), 88-97.

 

島内 晶(SHIMANOUCHI Aki)

プロフィール

専門:生涯発達心理学

略歴:明治学院大学大学院心理学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所研究生、群馬医療福祉大学社会福祉学部准教授を経て、現職。