第111回 他者との間にとる距離

2020年12月25日 投稿者:埴田 健司

 毎年12月になると「新語・流行語大賞」や「今年の漢字」が発表されます。先日、今年の新語・流行語大賞は「3密」、今年の漢字は「密」と発表がありました。「やっぱり」と思った人も多かったのではないでしょうか。今年の漢字を発表した清水寺の森貫主は、「密には、親しむという意味が含まれています。物理的には離れたとしても、心はつながりを持っていきたい。」と話されています。

 かくありたいとは思うのですが、実際に誰かと話をしたり、卒業研究でゼミ生を指導したりするとき、気づくと結構近づいてしまっていて、距離を取り続けるのはなかなか難しいと感じることが多くあります。コロナ以前、1対1の場面で1m以上離れて会話することはほとんどなかったですし、相手に距離をとられてしまったら「嫌われているのかな」とも思ってしまいます。親しい間柄の人との会話ならなおさらです。他者との間にとる距離には、その人との間柄やそのときの状況に応じたふさわしい距離があって、それを暗黙裡に使い分けていたことが、コロナ禍での距離のとり方に難しさを生んでいるのだと思います。

 エドワード・ホールは、下の図のように、コミュニケーションをとる際にとられる距離を4つに分類しています。親密距離(0~45cm)は、親子や恋人などの非常に親しい間柄で生じるふれあいの距離です。個体距離(45~120cm)は、親しい間柄にある友人や知り合いなどと会話をするときにとられやすい距離です。社会距離(1.2~3.5m)は仕事などで商談をするような場面でとられやすい距離、公衆距離(3.5m以上)は講演会のような場面で演者と聴衆の間でとられやすい距離です。親密な関係であるほど、相手との間にとる距離が短くなっていることが分かると思います。

 このように、他者との間に生じる物理的・空間的距離は、その人との心理的な距離と密接な関係があります。親しい人とは個体距離以下でコミュニケーションをとるのがコロナ以前の常識(old normal)であったわけですから、1~2m距離をとってコミュニケーションをとるのは違和感があって、近い距離になってしまいやすいのでしょう。また、物理的な距離を大きくとると、心理的な距離も大きくなってしまい、人とのつながりが弱くなってしまうことも考えられます。物理的な密を避けつつ、心理的な密を維持することは簡単ではないようです。でも、不可能なことでもないように思います。対面でなくとも、ビデオ通話やSNSなど、他者とつながる手段はあります。今はこうしたツールも利用しつつ人とのつながりを紡いでいって、コロナ収束後に紡いだつながりの花を咲かせましょう。

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埴田 健司(HANITA Kenji)

プロフィール

専門:社会心理学

略歴:一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。追手門学院大学心理学部特任助教を経て現職。著書(共著)は『エピソードでわかる社会心理学』、『よくわかる心理学実験実習』他。