第113回 アニメツーリズムという言葉をご存じですか?

2021年2月12日 投稿者:森下 一成

およそアニメツーリズムとはアニメや漫画の舞台となった地域を訪れる旅行を意味しますが、これが地域活性化の手法とされて久しく、目を見張るほど増えてきました。たとえば、東京未来大学の近くであれば、葛飾区の四ツ木の『キャプテン翼』や亀有の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。お隣の埼玉県では久喜市の『らき☆すた』、秩父市の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。遠く鳥取県境港市では『ゲゲゲの鬼太郎』などなど枚挙にいとまがないですね。

 

私はコミュニティの公共空間、なかでも祈りの空間を主たる研究対象の1つにしているので、「聖地」という言葉を含めてインターネット上の検索をかけるときがあるのですが、それこそ洪水のようにアニメや漫画の「聖地」に関する情報が検索上位に上がってくるときがあり、リサーチがややこしくなることがたびたび起きるようになりました。

 

昔は聖地巡礼といえば宗教上のそれを指しましたが、今はアニメや漫画の舞台となった地を訪れることにも使われていますね。ポップなコンテンツに対する「信仰」がアニメツーリズムの核心なのかもしれません。比喩としての「聖地」が本家本元の聖地を乗っ取ってしまった観がありますが、まちづくりという視点からみたとき、聖地観はアメリカの建築家・都市計画家のC.アレグザンダーによって大きく広げられます。彼は主著『パタン・ランゲージ』で聖地を「その地域と住民の源流(ルーツ)とを象徴するような特別な場所」というように定義し、「そこは過去から受けつがれた自然の美しい場所かもしれないし、歴史的ランドマークかもしれない。だが、それはどんな形にせよ本質的な場所である」旨を述べています。このように聖地を解釈したとき、聖地は必ずしも宗教上のそれでなくてもいいのかもしれないですね。たとえば、その地域がアニメや漫画の舞台となって内外の人に知れ渡り、その登場人物が訪れた場所、店、食べていた食べ物などがその地域と結びつけられた文脈で把握される地域資源になったとき、聖地が誕生するのかもしれません。

 

いま、東京未来大学のある堀切駅の隣の駅、鐘ヶ淵駅前にある平和会商店街ではこのアニメツーリズムを使って鐘ヶ淵を盛り上げようという気運が起きています。まちおこしのテーマとして候補に挙がっているのが、ちばあきおさんの描いた『キャプテン』という野球漫画です。

この野球漫画、主人公が魔球を投げるわけではありません。もちろんその父親が魔球のためにギプスを着用させたり、お姉ちゃんが障子の陰から涙を流していたりということもありません。舞台は墨谷二中という架空の中学校。名前から伺えるとおり墨田区内の中学校がモデルと言われています。

最初こそ谷口君という主人公が設定されていましたが、谷口君の卒業後は代々の新しいキャプテンにフォーカスを当てながらも、良好なチームワークをどうしたら維持できるか、試合に勝つという目的のために士気をどのように維持するか、それらのことをめぐる人間模様が描かれています。

アレ?これ、モチベーション行動科学部での学びの本質を突いていません?

 

ともあれ、鐘ヶ淵でのこのアニメツーリズムの仕掛けは「キャプテン・プロジェクト」と名づけられ、学生との協働が始まっています。2021年2月の定例会では学生が司会・進行を務めました。まちを動かす、その力になるという実感を得つつ、まちのモチベーションを上げるべく、大学での学びを実際の活動のなかで確かめているようです。

 

C.アレグザンダー/平田翰那訳『パタン・ランゲージ』鹿島出版会 1984

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森下 一成(MORISHITA Kazunari)

プロフィール

専門:公共空間論、まちづくり
略歴:早稲田大学大学院政治学研究科・理工学研究科修士課程修了後、琉球大学大学院理工学研究科修了(博士・工学)。学生にまちづくりを経験させてキャリア開発を促す指導に注力している。